なぜ日本語は主語を言わないのか

「主語を言え」は英語学習の定番指導だ。だが、主語は単なる文法ではない。
主語とは、視点責任合意の置き方である。

日本語は“主語がなくても通じる”のではない。
実際は、主語の代わりに文脈関係性が働いている。

1. 主語を言わないのは「怠け」ではなく設計

日本語は高文脈(high-context)と言われる。背景の共有が前提になりやすい。
だから「(私は)」「(あなたは)」を省略しても成立する。主語が消えるのではなく、主語が“空気”に溶ける。

2. 英語は「責任の明示」を要求する

英語圏の仕事は、責任範囲が分割され、関係性が流動的で、参加者の前提が違うことを前提に進む。
そのとき主語は、誰が責任を持つかを示す装置になる。

同じ内容でも、主語の置き方で意味が変わる
  • We decided to change the scope.(組織として決めた)
  • I suggest we change the scope.(私の提案)
  • You asked to change the scope.(相手の要請)
  • The scope changed.(責任が消える=危険)

3. 日本語の「主語省略」は、リスクが小さい場所で強い

家族、同じ部署、長年の関係。共有が厚い場所では主語省略は効率が良い。
しかし国際会議、契約、交渉、面接では、共有が薄い。ここで主語が消えると、誤解が生まれる。

4. “主語を言えない”の正体は「視点が決まっていない」

英語で詰まる瞬間、多くの人は単語の問題だと思う。実際は視点が定まっていない。
「私は言いたい」「会社として言いたい」「事実として言いたい」— どれで話すかが決まっていない。

主語は“言葉”ではなく、あなたが今どの立場で話しているかを示す旗だ。

5. 今日からの実務:主語の3レイヤー

  1. I(私):提案・懸念・意見(責任を持って言う)
  2. We(組織):合意・方針・チーム決定
  3. It / This(事実):観測・データ・現象(責任を消さない)

例:I think… / We agreed… / This increases risk because…

6. “責任を消す英語”を避ける

日本語の「〜になりました」は便利だが、英語で多用すると責任が消える。
仕事では、責任が消える文は危険。必要なら主語を置く。

Bad: The deadline got changed.
Better: We changed the deadline to May 10.
Better: I propose changing the deadline to May 10.